- 「パパ、ママ、早く 早くぅ〜〜っ！ 」
- １０歳くらいの かわいらしい少女が、雪のつもった歩道を 赤いポンチョをひるが
- えして、振り返りながら駆けてくる。仲良く腕を組み、ニコニコ顔の若いパパとマ
- マを待ちきれない。その幸せな家族の行き先は、目の前の 色とりとりの電飾で飾
- りつけられた１０ｍものクリスマスツリーをかまえた レストランか。
- “スモールレディーに そっくりだ････”と、冥王せつなは 思った。
- 時の番人としての任務につくセーラープルートのもと、スモールレディーからの招
- 待状が 時空の扉に転送されてきた。２０世紀のクリスマスイヴ。スモールレディ
- ーを囲んで あの愉快な仲間たちと過ごすパーティーの一夜は どんなにか楽しいだ
- ろう。
- キング・エンディミオンから特に許しをもらい、時空の戦士ではない、ひとりの女
- 性 冥王せつなとして、本当に久しぶりに この麻布は十番町に降り立った。
- 雪の舞い散るクリスマスイヴの十番町商店街、午後６時半。家族連れ、恋人同士の
- 行き交う 賑やかな通りを、小さな包みを小脇に抱え ７時からのパーティーを控え
- て大わらわであろう月野家へと急いだ。
- 包みの中身は、かわいらしいオルゴール。曲名は知らないが、愛らしく楽しい そ
- の調べは、スモールレディーにピッタリだと思う。
- 「喜んで もらえるかしら。」
- 自分で １時間以上もかけて選んだ、スモールレディーへのプレゼント。しっかり
- と抱きしめると、自然に幸せな気持ちがこみ上げてくる。
- ＊ ＊ ＊
- パパパパァーーーーンッ！！ キキキィィィーーーーーッッ！！！
- ギクッと、せつなが振り返る。
- 商店街の 内の通りを疾走する大型トラックだった。目の前をいきなり横断した自
- 転車を避け、急ブレーキを踏んだ。雪にハンドルをとられ、コントロールの効か
- なくなった 巨大な車体は 車道から歩道の切れ目に乗り上げ 突っ込んだ。そこに
- は あの大きなクリスマスツリーと、赤いポンチョの少女がいた。
- 父親が飛び出し、少女を抱き抱えた。スピードを殺せないトラックの巨体が 親子
- をめがけ 襲いかかった。
- 「もう ダメだっ！」･･と誰もが思ったのと、轟音をあげて トラックが レストラ
- ンの前の クリスマスツリーの巨木をへし折ったのは同時だった。
- ＊ ＊ ＊
- 「････････････わあぁぁぁん･･････ パパぁ〜〜 ･･････････」
- 人々は、我が目を疑った。親子は 無事だった。
- 横転して 無惨な姿を晒したトラックに 数メートル離れて、火のついたように泣
- き出す少女を抱え 雪の中に呆然と座り込む父親がいた。
- それは、クリスマスイヴのささやかな奇跡だったのかもしれない。真っ青になった
- 母親がフラフラと駆け寄る。トラックの中から運転手が這い出す。店内から、通り
- から、大勢の人々が集まって来る。
- しかし、その群衆の中にいた 褐色の肌の 長い黒髪の女性が姿を消した事には 誰
- も気づかなかった。彼女こそが この小さな奇跡の演出者だったのに････。
- ＊ ＊ ＊
- 冥王せつなが 目を覚ますと、そこには、深く 広大な、ただの暗闇が無限に広がっ
- ていた。
- 「･･････ やって しまった ････････」
- そこは、永遠の牢獄 時空の狭間であった。時の罪人を縛る永遠の暗闇。
- 時の番人セーラープルート、それゆえ 時の流れを操る事もできる。しかし それ
- は、小さな 時の積み重ねである歴史に、直接 手を触れること。犯してはならな
- い禁忌であった。
- 時の流れを止めたのは、これが初めてではなかった。デス･バスターズとの血戦。
- 二人の戦士の命と 自らの存在を引き替えたあのとき。永遠の牢獄たる時空の狭間
- に転送されたはずであった。
- だが、セーラープルートは帰還した。いや、気づいた時、彼女は 時空の扉の前に
- 倒れていたのである。それは 世界の生を司る銀水晶が起こした、プルートにとっ
- ての 正に奇跡のできごとだった。
- しかし、本当の奇跡は 二度とは起こらない。ましてや、今回は 世界の為でもな
- い。ただの少女の危機を回避する その為だけに戒めを破ってしまった。それが時
- の番人として どれほどの禁忌であるか、彼女自身が最もよく知っている。
- 冥王せつなは、深く、長い溜息をつき、その場に座り込んだ。
- 時の番人セーラープルートには、永遠なんて何も恐ろしくはない。今までだって
- ずっとひとりだった。永遠にひとりで、時の番人を続けるのが彼女の役目だった
- から。
- ただ･･
- 「････もう、二度と･･スモールレディーに会うことは･･･ できないのね････」
- 抗する事のできない運命が、彼女を 最も大切なものから 永久に引き離す。これ
- が“死ぬ”という事なんだと 思った。
- ･･ﾁﾘﾝ･･ ｶﾗﾝ･･ ｺﾛﾝ･･････
- ふと気づくと、手にしっかりと かの小さな包みを握りしめていた。包み紙の破れ
- 目から、かわいらしいオルゴールが のぞき、蓋の隙間から美しい調べをもらして
- いる。
- 「よく これを持っていたこと･･」
- 曲名なんてわからない。でも、こうやって ここでオルゴールを奏でながら、スモ
- ールレディーの事を思って、悠久の時の中に身をまかせるのも 悪くない･･と、せ
- つなは思った。
- 「わぁ〜い！ひとだぁ！ひとが いたぁ〜〜〜っ！！ 〜ﾟ(^o^､)ﾟ/〜 」
- ビクッ、として振り返った せつなの目の前に ひとりの人物が立っていた。その
- 姿は････。セーラー戦士･･･とは 何となく違うが、それらしいコスチュームを身
- につけた ひとりの少女だった。
- 「あ････、あなたは、いったい････？」
- 「あたし？ あたしは こう見えても････」
- 少女は エヘンと もったいをつけ、うやうやしく誇らしげに せつなに名乗った。
- 「時空を司る 時の番人 〜ﾟ(-_- )ﾟ〜 セーラープルートとは、あたしの事よ！
- 〜ﾟ(^-^)ﾟ/〜 」
- ｏ
- 「ええぇ〜〜〜っっ！？？ (ﾟ_ﾟ;)＼」
- ＊ ＊ ＊
- 「･･････キャラメル･･ワールドぉ〜･･？ 〜ﾟ(･_･;)ﾟ〜 」
- 「いえ･･“パラレルワールド”･･というものだと思います。わたくしも、初めて体
- 験しましたが････。」
- 「ふ〜ん、つまり〜 〜ﾟ(ﾟ_ﾟ;)ﾟ〜 せつなさんは･･、あ、ややこしいから あなた
- は せつなさんで、あたしはプルートって事にしようね。 〜ﾟ(^^*;)ﾟ〜 ･･･せつ
- なさんは、あたしとは別の世界の セーラープルート。つまり あたし･･って事な
- のか〜？〜ﾟ(･_･;)ﾟ〜 さすが、時空って 未だにわかんないとこだね〜
- 〜ﾟ(?_? )ﾟ〜 」
- 異世界からやってきたプルートは、無邪気に頭をひねっている。
- それにしても、パラレルワールドとはいえ、このふたりのプルートの 徹底的な違
- い方はどうだろう。せつなは、プルートと名乗る 自分より明らかに年下らしい少
- 女をまじまじと見つめた。金色の長い髪を、頭の上で 丸いふたつのおだんごに結
- い上げた この愛らしい少女は、まるで････。
- もっとも、今のせつなには、そんな事はどうでもよかった。自分と同じ名前の少女
- が、同じ宿命をたどる その皮肉さにこそ、深い哀感を感じていた。
- 「････そうですか･･･。あなたも時の番人･･･そして、時の禁忌を犯してしまった為
- に、この永遠の牢獄に送られたとは･･･。どうやら これは“セーラープルート”
- が持つ、永遠の“業”なのかも知れませんね････。」
- 「ん〜〜？ 〜ﾟ(･_･ )ﾟ〜 “ごう”だか“ろく”だか知らないけどぉ、せつなさん
- は、このままここで ず〜っと過ごすつもり？」
- ｏ
- 「えっ？ (ﾟ_ﾟ;)＼･･･で･･でも、それが 時の罪人としての宿命で････ 」
- 思いがけない 少女の問いかけに、せつなは口ごもった。
- 「バカバカしいなぁ。 〜ﾟ(-_- )ﾟ〜 せつなさんも、時の番人なら判っていると思
- ったけど････。ここは 牢獄でも何でもないよ。時空は すべての世界、すべての
- 時間につながっている広〜い通路なんだよ。何百年、何千年、何万年も歩けば、
- きっとどこかの世界に通じる出口にたどり着けるんだもの。」
- 「でも･･、そんな事は････」
- 少女の あまりに荒唐無稽な例えに、せつなは何と答えていいか わからなかった。
- 「どんな世界だって ここよりはマシだよ。だから、ここに迷い込んだら みんな出
- 口を求めて歩くんだよ。それが希望。せつなさんみたいに、ボンヤリ座り込んで
- いるひとはいないよ。
- それに････、何億兆万分の一っ！〜ﾟ(>_<;)ﾟ/〜 かもしれないけどぉ、元の世界
- に還ることだって できるかもしれないんだよ！〜ﾟ(^o^)ﾟ/〜
- ただし････。もしも、せつなさんには そんな事をする気も起きないほど、何の
- 夢も 希望もないんだ････っていうんなら、無理にはすすめないけどね。」
- せつなは、ギクリとして 手の中のオルゴールを握りしめた。蓋が緩み チリン･･と
- メロディーの断片が流れた。
- 「ん〜 ？ 〜ﾟ(^^ )ﾟ〜 うん。それじゃ 行こうかぁ！もしかしたら、また別のプル
- ートにだって 出会えるかもしれないしねぇ。」
- 金髪おだんごのセーラープルートは、楽しそうに コロコロと笑った。
- ＊ ＊ ＊
- そうして、何カ月、何年、いや それとも何千年が過ぎたのか。時の流れのない時
- 空には何の意味もないが、ふたりのプルートは 相変わらず連れだって歩いている。
- ｏ
- 「そちらの世界のプルートは、とっても明るいこと･･･。(^^* )＼ 」
- 「それだけが あたしのとりえ。せつなさんみたく美人じゃないからぁ〜。
- 〜ﾟヾ(^^*;)ﾟ〜 」
- ふたりは同じ話を何万編でも 楽しく、親しく語り合った。時の番人としての仕事
- のこと。それぞれの世界のクリスタルパレスのこと。友人のこと。恋の話。そして
- スモールレディー････
- 「あなたの世界には スモールレディーがいないのですね、気の毒だわ。」
- 「クイーンの息子で 生意気なクソチビがいてねぇ。〜ﾟ(-_-;)ﾟ〜 そのくせ、あた
- しがいてやんなきゃ何にもできないんだよ〜。だから、何が何でも還らなくっち
- ゃならないの、あたし。」
- ｏ
- 「その小さな王子さまが････、あなたの“夢”なのかしら。 (^^* )＼」
- 「エヘヘ････････。 〜ﾟ(^^*;ゞﾟ〜 」
- そのとき、ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ････ と、低い唸りが聞こえた。フッ･･と足下が沈み込むよう
- な感覚に ふたりは立ち止まった。
- 「時震だわ･･」
- 時間と空間のひずみから、何かの拍子で 時空間自体をねじ曲げようとする重力が
- 働くことがある。
- 「大したこと ないない。〜ﾟ(^^ )ﾟ〜 時空じゃよくあるんだよ。･･･と言っても
- 何百年に１回くらいね。」
- しかし、唸りは たちまち ゴゴゴォォーーー････ という連続的な強い調子に変わっ
- ていく。立っている事が困難なほど 足下が波打ちはじめた。
- 「大きいっ！気をつけて、プルート！、吹き飛ばされ･･ 」
- ズズーーーンッ！！
- 大音響が轟き、ふたりは同時に足下をすくわれた。
- 「せつなさんっ！」 「プルートッ！！」
- 互いに伸ばした手が空を斬り、上も下もわからない暗闇の中で ふたりは うねり暴
- れる激しい重力に たあいもなく振り回された。
- 「セーラー プルートーーーッッ！！！」
- せつなの叫びは、ゴゴオォーーーーッッ！！というすさまじい轟音にかき消され、
- そのまま 意識が遠のいていった。
- ＊ ＊ ＊
- ハッ･･と 気づいた時、せつなは 闇の中に、色とりどりにまたたく無数の光を見た。
- ボンヤリと“街の灯だ”と思った･･瞬間、全身に 叩きつけられる 激しい衝撃を感
- じ、また気を失いそうになった。
- ドーーンッ！！バリバリバリ ガシャァーーーンッッ！！！
- ＊ ＊ ＊
- せつなが、もう一度 目をあけた時････、あの懐かしく、愛くるしい瞳に出会った。
- 目を丸くして 自分を見つめているのは････
- 「ぷ･･、ぷぅ〜･･？ ~ﾟ(ﾟ_ﾟ;)ﾟ~ あんた、どこから 来たのぉ〜〜っ！？」
- 「･･ス･･、スモール･･レディー････？」
- そして、呆然と立ちつくす 月野うさぎに 土萠ほたる。
- 「･･････クィーンも･･･････ ｏ
- ･････････！？ い･･今は、いつ！？ ここは、どこっ！？(ﾟ_ﾟ;)＼」
- 「あ、あのね〜････。 〜ﾟ(^_^;)ﾟ〜 ちびうさのクリスマスに来たんでしょっ！！
- ったく、ど〜ゆ〜事よっ！せつなさんまで スッポかすなんてっ！！もう とっく
- に １２時回っちゃったじゃないのっ！！ 〜ﾟ(>_<;)ﾟ/〜 」
- そこは、きらびやかなクリスマス模様に彩られた 暖かなリビングルームだった。せ
- つなの真上、天井にぽっかりと大穴が開き、雪の降り止んだ夜空に 冬の星座が静か
- に またたいていた。
- ｏ
- 「････な･･何億 兆････万分の････････ 一 ･････ (ﾟ_ﾟ;)＼ 」
- 「･････････････････････ン〜 ？？？？ 〜ﾟ(･_･;)ﾟ〜 (･･;) ~ﾟ(･･;)ﾟ~ 」
- ＊ ＊ ＊
- 訳を聞きたい一同を前に、まず せつなは、うさぎのいれた熱いココアを ひと口す
- すった。そして、しっかりと抱えて持ち帰った オルゴールの蓋を開ける。愛らしく
- いとおしい あの調べが流れた。
- “あのプルートは、どうしたろう。うまく 自分の世界に還ることが できたのかし
- ら････。
- いいえ、今、それが できなかったとしても あの子は大丈夫だわ･･･。私とは 全
- 然違う プルートだから････。”
- ふ〜っと、暖かい息を吐くと、今ここに 仲間たちといる自分を実感できた。
- 「ありがとう、セーラープルート･･･ 」
- そのとき ふと、うさぎが 思いついたように 叫んだ。
- 「なぁんだぁ！そのオルゴール、な〜んか聞いたことがある曲だと思ったら･･･。
- 『おさるのかご屋』だったんだねぇ。せつなさん。 〜ﾟ(^^)ﾟ〜 」
- ＥＮＤ
- セラムン寄席 席亭 わんべえ
- (JCC00655@nifty.ne.jp)
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