「すてき、すてきっ！ つまり、ヴィーナスが あたしのお婿さんになるのね！〜ﾟ(^ ^*)ﾟ〜 」

　　　「いや、お婿さんって・・・・ ！ (ﾟ_ﾟ;)」
　　　「セレニティー、あ・・、あのね・・・・！　 〜ﾟ(;ﾟ_ﾟ)/ﾟ〜 」

　うろたえる婚約者と母親を余所に、プリンセスセレニティだけが ひとり無邪気にはしゃぎ回
　った。

　セーラーヴィーナスが 陶然とした面もちでつけ加える。

　　　「エンディミオン様には申し訳ないけど、そうなったら私が シルバーミレニアムの王子。(((-_- )
　　　　プリンセスとふたりで、王国のより一層の繁栄と平和に 力を尽くすことを誓いますっ！

　“どどおぉっ！！”と 最大のどよめきが沸き上がった。王国の運命に風雲急を告げる(?)事
　態は、早くも観覧席を伝わり コロセウムに集う全ての民衆に知れ渡ったようだ。

　　　「・・・・・・・・だ そうです・・。(・_・;)」

　既にアリーナに降りて 対戦者を待っていたマーズは、場内の異様な雰囲気を怪訝に思っ
　ていたが、先程の進行役のシングル・ボウに 事の成りゆきを伝えられた。

　　　「あ、あのバカッ！ 何て恐ろしいこと考えてんのよっ！ (^_^;)」

　やがて、準備を整えたヴィーナスが、東の入場口からアリーナに降りる。装備はマーズと
　同じく、通常のフェイクソード１本と ヘッドプロテクターを付けただけの軽装だ。

　　　「マーズ、あんたに恨みはないけど、この勝負 本気でいくわよっ！」

　　　「・・・・・・ (-_-;)」

　やけにいきり立つヴィーナスと 無言で溜息をついたマーズが、１０ヤード程の距離をおい
　て向かい合った。場内の盛り上がりも最高潮である。

　　　「今日のヴィーナスの殺気は ただ事じゃないわ！ 気をつけて、マーズっ！」

　叫ぶマーキュリーの隣で、ジュピターが ポツリとつぶやく。

　　　「殺気ばかりで・・・・、スキだらけじゃないかなぁ・・・・。(^_^;)ﾟ~」

　　　「がんばって ヴィーナス！ ふたりでウェディングドレス着ましょうねぇ！〜ﾟ(^.^ )ﾟ〜 」

　セレニティの無邪気な歓声に、セーラーヴィーナスが にこやかに手を振る。

　　　「マーズっ！ 頼むから 負けないでくれよ〜っ！(>_<､)/ 」

　　　「当たり前ですっ！！(-_-ﾒ)」

　エンディミオンの必死の声援に、セーラーマーズが 苦々しく吐き捨てた。

　　　「・・・・・・・・・・・・・・・・惜しかったわね、ヴィーナス。 〜ﾟ(^_^;)ﾟ〜」

　プリンセスセレニティは、敗者のたんこぶを手当しながら 労いの言葉をかけた。

　アリーナに繋がる東側の控え室に集まった、マーズを除く仲間たちに囲まれ、セーラーヴィ
　ーナスは 失意の溜息をついた。

　　　「さすが 軍神 セーラーマーズね。悔しいけど、あたしの負けだわ・・・・。(-_-;)」

　エンディミオンとマーキュリーが 呆れたように答える。

　　　「それほどの試合内容じゃ なかったがな・・・・。(^_^;)」

　　　「私も・・・・、もう少し何かするのかと思ったんだけど・・・・。(^^*;ゞ」

　あっという間のことだった。開始と同時に 遮二無二切り込んだヴィーナスの剣を ヒラリとか
　わしたマーズが脳天に一撃。それで終わりだった。

　　　「あ、いやしかし、あれはあれで 観衆には ウケていたようだ。」

　エンディミオンは、自身の最悪の事態を乗り切ったことに ホッとして 場違いな慰めの言葉
　をかけたが、傍らの女王の面もちは オロオロと反省しきりである。

　　　「それにしても、本当にマーズは強いんですね。私は剣のことなど 何も知らないものです
　　　　から、思いつきとは言え 無茶なことを言い出してしまって・・。」

　セーラージュピターは ひとり 話の輪から離れ、壁にもたれて ジッと皆の話に聞き入ってい
　たが、急に 誰に言うともなくつぶやいた。

　　　「要は、マーズに 剣技を上回るだけのハンデを持たせることか・・。それじゃ、今度は あ
　　　　たしが挑戦して みようかな？」

　　　「ええっ！？」

　ギクリとして 一同が振り返った。エンディミオンが 声をうわずらせ、セレニティが嬌声をあ
　げる。

　　　「ま・・、まさか 君も・・・・？ (ﾟ_ﾟ;)」
　　　「あたし、ジュピターでも いいわよっ！ 〜ﾟ(^^ )ﾟ〜 」

　ジュピターは あわてて言葉を継いだ。

　　　「ちょ、ちょっと待って。ヾ(^^*;)ﾟ~　あたしは 誰かさんと違って、常識ってものをわきまえて
　　　　るから そんな無茶は言いませんよ。」

　　　「それに 勝負は時の運でしょ。闘う前に ご褒美のことを口にするのもね。でも、もし本当に
　　　　あたしがマーズを打ち破ることができたら、その時は・・・・ ほんの ちょっとしたお願いを
　　　　聞いて下さいますか、クイーン。」

　闘技場に 緊張がよみがえる。軍神マーズと剣を交える 新たな挑戦者の入場に、先ほどの
　茶番劇に湧いた大観衆が、今一度の盛り上がりを見せた。

　　　「今度は ジュピターですって？ みんな 何を考えてんのよ。」

　セーラーマーズは アリーナ上で向かい合う二人目の朋友に、戸惑いを隠せない。

　ところで、ジュピターの出で立ちは、先ほどのヴィーナスとは 打って変わったものであった。
　コスチュームこそ ヘッドプロテクターをつけただけの軽装に違いないが、左手に サークラー
　と呼ばれる 肩幅よりも狭い直径の小型の円盾を持っている。

　何よりも 右手に握られた剣の巨大なこと。むろん模擬刀ではあるが、バスタードと呼ばれる
　それは、通常は両手で握る長剣なのだ。

　観覧席のエンディミオンが、感じ入って頷いた。

　　　「考えたな。マーズのソードよりも３インチは長いバスタードで、間合いをとって闘うらしい。
　　　　懐に入られれば、全ての攻撃を盾で受けるつもりだ。」

　いまや、ヴィーナス、マーキュリーも王国のエンブレムの下に集って、アリーナ上を凝視し
　ている。

　　　「ああっ、あたしもこの手を使えば良かった！」

　悔しそうに呻くヴィーナスを マーキュリーが なだめる。

　　　「あの剛剣を片手で扱うなんて、他の誰にもできないわ。ジュピターの腕力が あればこそ
　　　　なのよ。」

　マーキュリーの言うとおりだった。セーラージュピターは、両手で握る剣の長い柄を鍔元いっ
　ぱいに右手で掴み、頭上に振り上げると 軽々と一旋。ブンッ！・・と 空気を斬り裂く豪快な
　音が響く。

　　　「ジュピター。剣は腕力じゃないっていうこと、教えてあげるわ。」

　セーラーマーズは 中段に構えた細身のソードの切っ先を、朋友の姿に ピタリと重ね合わせ
　た。

　やがて、二人の剣士の間に立ちはだかっていた進行役のシングル・ボウが 身を退き、両手
　を掲げ 高々と宣言する。

　　　「Ａｌｌｅｚ （試合開始）！」

　開始と共に飛び出したのは、意外にもマーズの方だった。

　間合いを測って後退するジュピターの 寸前まで一気に詰め寄り、さらに踏み込んで 左肩口へ
　の一撃。

　ジュピターの握るサークラーが 細身の刀身を受けとめ、弾き返したが、マーズのソードは
　すぐさま軌道を変え、今度は 右腹をめがけて なぎ払ってきた。

　ジュピターは 刀身の長いバスタードを 腰に引きつけ、十文字に受けとめる。・・と思うや、既
　にマーズのソードは空を舞い、早くもジュピターの頭上に 振り下ろされてきた。あわてて首を
　すくめ、反射神経で左腕を掲げ、サークラーで刃を受けとめる。

　セーラーマーズの細身の剣は、まるで しなやかな生き物のように 自在に軌道を変え、一瞬
　も休むことなく あらゆる角度から、ジュピターの上半身だけをめがけて正確に、繰り返し襲
　いかかった。

　　　「ジュピターは 身を護るのがやっととはいえ、よくあの猛攻に耐えていますね。」

　　　「ええ、マーズだって 無限に剣を振り続けることはできないんだから、それが途切れた時
　　　　が ジュピターのチャンス。・・そうでしょう？ ウラヌス。」

　左翼の観覧席でアリーナ上を見守る三界王。プルート、ネプチューンは ジュピターの意外
　な善戦と見たようだが、セーラーウラヌスは パートナーの問いかけに無感動に返答した。

　　　「マーズが手加減しているだけさ。誰だって 自分の剣で、友だちにケガなんかさせたくな
　　　　いからな。この試合、マーズが終わろうと思った時に 終わるよ。」

　自分の考えを頭ごなしに否定され、ネプチューンは 気分を害したらしい。

　　　「そうだとしても、ジュピターが そこにつけいる事はできるでしょう。そこまで言って、もしも
　　　　ジュピターが勝ったら どうする？ ウラヌス？」

　ムキになって反論するパートナーの 愛らしい反応に、ウラヌスは 思わず含み笑いをもらし
　た。

　　　「フフ・・・・ そうだな。クィーンじゃないが、きみの望む通りのことを 何なりと聞いてあげる
　　　　よ、子猫ちゃん。」

　しかし、やがてアリーナ上は ネプチューンの占った通りに展開していく。

　すさまじい猛攻から辛うじて逃れたジュピターが、ようやく 間合いをとってマーズに向き合う。

　静かに弧を描くように すり足で 移動しながら距離を測るマーズに、ジュピターは 体を左に
　開いて構えた。やがて、バスタードの長い刀身を ほぼいっぱいに使い、二度三度と 踏み
　込んでその切っ先で マーズを捕らえようとする。

　剛剣の重量も苦にせず 右に左に、矢継ぎ早に繰り出される素早い突きを、マーズは正眼
　に構えた態勢を崩すこともなく 僅かな体のひねりでかわしていく。

　　　「ジュピターの闘い方は おもしろいわ。スピア（槍）・・・・いえ、まるでフルーレ（突き剣）を
　　　　扱うみたい。」

　王国のエンブレム下の観覧席で 勝負を見守る、マーキュリーのつぶやきに エンディミオン
　が応える。

　　　「斬るよりも 突く方が 剣の動きが少ない分、余計なスキを作らないんだ。間合いの有利を
　　　　活かすには、一見 理にかなった構えだろう。」

　　　「一見・・・・ですか？」

　マーキュリーが 問い返す間もなく、状況が一変した。

　ジュピターの突き出した バスタードの切っ先を、いきなり マーズのソードが叩き落とした。瞬
　間 ２人の剣が下段に泳いだまま、マーズが体ごと ジュピターの懐に突進した。

　反射的に仰け反ったジュピターは、左手に握ったサークラーでマーズの体を押し返そうとする。
　同時に、マーズのソードが刀身を翻した。

　無防備になった右肩に振り下ろされる素早い剣を、ジュピターは体を開き 右手に握ったバ
　スタードでとにかく受けとめる。

　しかし 闇雲に引き上げたバスタードは、嵐のような一撃を刀身の幅広の部分に受けてしま
　った。カキーンと 甲高い音を響かせて 中程から折れた剣先が、ジュピターの頬をかすめて
　弾け飛んだ。

　　　「そ、そこまでっ！！」

　ハラハラしながら 勝負の成りゆきを見守っていたクィーンセレニティーが 席を立ち、悲鳴の
　ような制止を命じたが、無論 アリーナ上に届くはずもない。

　傍らのエンディミオンが 冷静に状況を説明した。

　　　「まだです、クィーン。今のターンが続いている。もちろん 最早ジュピターの勝ちは 万に
　　　　一つもあり得なくなりましたが・・・・。」

　ジュピターの折れたバスタードは、しかし マーズのソードをその柄でガッチリとくい止めてい
　たのだ。ここに来て初めての 鍔迫り合いである。共に交差する剣を胸元に引き寄せ、互い
　の顔同士が肉迫する。

　折られた剣の鍔元を 肩口でようやく支え、膝をつき 腰を落とすジュピターに身を預けて の
　しかかるマーズが 余裕の口調で宣言する。

　　　「どう？ 剣は腕力じゃないってこと、解ったでしょ。」

　しかし、ジュピターは 不敵に笑みを返し、朋友の耳元に囁いた。

　　　「・・・・昨日は・・、何時間 ホールにいたんだい？」

　カッ・・！ と マーズの両眼が見開かれ、みるみる耳の先まで真っ赤になる。

　　　「そらぁっ！！」

　思わずマーズの力が緩んだ鍔元を、ジュピターが 力任せに弾き飛ばした。たまらず吹っ飛
　び 尻餅をついたマーズは、それでもジュピターと同時に跳ね起きる。

　　　「こ・・ このっ！ 卑怯者っっ！！！」

　柳眉をつり上げた軍神は、もはや 遮二無二 真正面から飛び込み、渾身の力で 袈裟掛けに
　斬り結んだ。

　ジュピターの左手に握られた円盾に、ガーンッと衝撃が走る。

　サークラーは 真っ二つになり、上半分が弾け飛んだ。その後ろに防御されていた、胸元の
　ピンクのリボンまでが一部をそぎ取られて吹き飛び、すさまじい一撃を物語った。

　しかし マーズは、剣を振り下ろした態勢のまま 右膝をつき、二の太刀を振るうことはできな
　かった。

　ジュピターの右手に握られた 折れたバスタードの刃先が、マーズの喉元にピタリと押し当て
　られていたのである。

　ほんの一時、水を打ったような静けさに包まれた巨大な円形コロセウムは 、一転、大地を
　揺るがすほどの大歓声と拍手と叫び声に 騒然となった。

　　　「解らない・・・・。なんだったんだ、マーズの あの一瞬の無防備さは？」

　嵐のような騒ぎの観覧席。三界王の中央に座るウラヌスが、呆然としてつぶやく。

　　　「解ったことは、一回こっきりの勝負は どういう結果になるか 誰も予測できないということ。
　　　　そして“私たちの勝負”は あなたの負けが確定した・・・・ということよ。」

　セーラーネプチューンは パートナーに目くばせて、満足げにニンマリと微笑んだ。

　民衆の大歓声にどよめくアリーナから 東側控え室に引き上げてきた２人の英雄を、まず待
　ち受けていたのは クィーンセレニティだった。

　　　「私の戯れが過ぎたようです。ごめんなさいね、マーズ、ジュピター。」

　晴れの催しに浮かれ、一国の指導者らしからぬ 卑俗な提案をしてしまった、そのすさまじい
　結果に すっかり青ざめた面もちである。お侠な姫君も 今は息を呑み、子どものように 母の
　ドレスの陰で立ち尽くした。

　一方 エンディミオンは、たくましい少女剣士たちの名勝負に 興奮気味である。

　　　「セーラージュピター、実に 見事だったぞ！！ それにしても マーズ、模擬刀で シールドを
　　　　真っ二つとは 恐ろしいな。」

　　　「プロテクターに救われました。真の剣技においては、私など マーズの足下にも及びませ
　　　　んから。」

　ジュピターは、リボンが半分ちぎれた バストプロテクターをさすりながら、傍らの朋友に微笑み
　かけたが、マーズは あからさまに視線をそらした。

　　　「うん。セーラーマーズ、これからは 万民の武育の為にも 君の能力を奮ってもらいたい。
　　　　・・・さて、しかし クィーン。こういう結果になったからには、ジュピターに 約束のご褒美を
　　　　賜らねばなりませんね。確か“望むものを何でも”・・・・ということでしたが？」

　上機嫌のエンディミオンの言葉を受け、女王が 勝者に向けて 笑顔で頷いてみせる。セーラ
　ージュピターは やや はにかんだ様子で、しかし はっきりと 自分の希望を告げた。

　　　「・・・・それでは・・・、あの・・。１階の小ホールに エンディミオン様が飾られた額縁を。プリン
　　　　セスの“フォトグラフ”を・・・・ いただけますか？」

　それまで、話の輪を遠ざけるように ひとり視線を落としていたマーズが、ギクリ・・と顔を上げ
　た。宿敵を見るような こわばった表情で ジュピターの横顔を見据えていたことには、誰も気
　づかなかった。

　　　「フォトグラフだって？」

　英雄の、その功績に比べて あまりにありふれた望みに、エンディミオンが、怪訝そうに問い
　返す。

　　　「いや、私は 別に かまわないと思うが、本当に“あんなもの”で・・・ あ、いやその・・・・ 」

　エンディミオンは 口ごもりながら 婚約者の顔を見やったが、プリンセスセレニティは それ
　には気づかず、あの人なつっこい笑顔で セーラージュピターに応えた。

　　　「ええ、私もかまわないわ。ジュピター、ありがとう。私のフォトグラフ 大事にしてね！」

　クィーンセレニティは、自分の引き起こした騒動が どうやら一段落ついたことにホッ・・・と
　胸をなで下ろし、朗らかに 一同を見渡した。

　　　「それでは、今日の式典のフィナーレに入りましょう。さあ、主役は もちろんあなたですよ、
　　　　マーズ。ジュピターと一緒に、もう一度 観衆に応えてあげてくださいね。」

　アリーナ上で、ファンファーレが 高らかに鳴り響いた。

　アリーナに向かう絨毯を 肩を並べて歩く朋友の耳元に、ジュピターは 彼女にしては珍しく、
　ちょっと意地悪げに囁いた。

　　　「悪いね、マーズ。プリンセスのファンは、あんただけじゃ ないのさ。」

　セーラーマーズは 横目で微かにジュピターを睨みつけ、しかし 何事もなかったかの様に
　毅然と正面のアーケードに向けて歩を進める。

　たちまち視界が開けると、観覧席を埋め尽くす民衆の大歓声に ２人の英雄は呑み込まれ
　ていった。

　宴の後の静けさに包まれた 深夜の宮中。やけに上機嫌のジュピターが、自室に戻ってきた。

　全ては 上々の一日だった。手にしていた青いペンを、器用に指先でクルリと回すと 書き机
　の箱に放り込む。

　ホッ・・・・と安息の溜息をつき、ベッドに腰を降ろす。傍らの姿見を眺めながら 鼻歌混じりに
　身支度を解きはじめた。

　やがて胸元の、あの ちぎれたリボンを スルリ・・と ほどくと・・・・。

　パキッ・・・ と小さな音が響いた。

　　　「え・・・・・？」

　　　ガラン！ ガラン・・・・！

　バストプロテクターが、あのマーズの一撃と同じ形に 左上から袈裟掛けに真っ二つに割れて
　落ち、ジュピターの足下の床にころがった。

　薄いレオタード生地に包まれた豊かな胸が あらわになる。

　その脈動を両腕で抱え、ポニーテールの少女戦士は 深く息を呑み込んだ。

　　　「じょ・・ 冗談じゃ ないぞ・・・・・ (^_^;)ﾟ~ 」

　ちょうどその頃。セーラーマーズの部屋は 既にシン・・と静まり返っていた。

　今日は いろいろあり過ぎた。黒髪の少女戦士は、誰にも邪魔をされず ひとりで想いを巡ら
　せることのできる床に入り、眠りについたようだ。

　彼女の部屋の前、ドアの外側に立てかけられた 小さな包みに気づくのは 明日の朝に違い
　ない。

　それは、セピア色の画面の中で微笑む あの愛くるしい少女のフォトグラフだった。

　木枠に、ピンで 小さなカードが添えられている。