「さあ？ 少なくともマリア様のせいじゃないでしょうね 」
カタカタカタ‥ パタパタパタ‥
ネチネチと絡んでくるお姉さまの皮肉もモノともせず、真美はパソコンに向かい記事の打ち込み
作業を続けながら、そらっとぼけてみせた。
「あんたしかいないでしょうが！ リリアンかわら版編集長、山口真美っ！ 」
放課後の新聞部のせまい部室には、じっとりと重苦しい空気が垂れ込めている。もう七月に
入っているというのに明ける気配をみせない梅雨のためではない。
部屋の片隅には、ビクビクと身を寄せ合うように１年生部員が三人。
経験の浅い彼女たちは気づかなかったのだ。久しぶりに部室に訪れた三奈子部長のご機嫌が
あまりかんばしくないことに。それで他愛のないおしゃべりで盛り上がっているうちに帰り
そびれてしまった。
今となっては、この空気を破って席を立つこともできない。新聞部のカリスマ部長と実力編集長、
大物姉妹の間に飛び交う見えない火花の行方を かたずを飲んで見守るしかなかった。
妹の無反応にもかまわず、三奈子は配布中の最新のかわら版を当てつけがましく広げて"ネチ
ネチ攻撃"を続行する。
「"ランチの観察日記"。昼休みにキャンパスをうろついてるあの猫にどんな事件性があるって
のよ。２本足で直立するとかいうなら話は別だけど、今さらこんなものを一面でシリーズ扱い
してるようなセンスだから頒布率が落ち込んだんじゃないの！ 」
「仕方がないでしょう。記事になるような事件が何も無いのにどうしろって言うんですか。
それよりも、こうやって一面のスペースを地道に確保し続けていれば、いざという時に差し
替えが利くんです。今はガマンの時期なんですよ、お姉さま 」
カタカタカタ‥ パタパタパタ‥
頒布率というのは、つまり「リリアンかわら版」がどれだけの生徒に読まれたかということだ。
頒布率６０％なら、高等部の全生徒のうち４０％は読んでくれなかったということになる。
学校新聞の頒布率が６０％というのもおかしな話だ。常に全校生徒の数だけ印刷し、その都度
各クラスに人数分を配布すれば、いつでも頒布率は１００％になるはずだから。しかしリリアン
かわら版は、それとは違う方法で生徒たちに配布されていた。
その週の最新号が発行されると、キャンパスの数ヵ所に設置されている専用の配布スペースに
適当な枚数ずつセッティングしていく。生徒たちは銘々が自由にそれを取っていくのである。
別に代金を取るわけではないが、新聞部員はこの配布スペースを「専売所」と呼んでいた。
新聞部員が専売所の残部数を毎日チェックして歩き、少なくなっていれば継ぎ足していく。
そして１週間経つと、また新しいかわら版に差し替えられるという具合だ。
だからその週の発行号に 大して興味を持たれなければ、誰も手に取ってくれず、ごっそり
余ってしまい廃棄処分にするしかない。今まさにそうした事態が続いている‥ということなのだ。
「マリア祭での白薔薇宗教裁判は おいしかったわね。頒布率１４０％なんて、めったにある
ことじゃないもの。やっぱり山百合会だわ、それしかない！ 」
三奈子は、ひと月前の大成果をうっとりと思い返した。
カタカタカタ‥ パタパタパタパタ‥
リリアンかわら版は高等部が発行する新聞であるにも関わらず、驚いたことに中等部の大講堂や
大学部の学生サロンといった場所にも「専売所」を設けていた。
これはリリアン女学園が幼稚舎から大学までの一貫教育というシステムをとっていることに由来
する。つまりこれから高等部に進学しようとする中等部の妹たちや、高等部を卒業して大学に
進学されたお姉さま方にとっても、リリアンかわら版は無縁なものではないということだ。
特にリリアンの高等部といえば、姉妹制度や 学内ソロリティとも言うべき山百合会の存在など、
その独特の校風を知る者にとっては尽きない興味の宝庫だった。
最近で言えば、２月のバレンタイン企画や５月マリア祭での白薔薇宗教裁判の時など、高等部の
全生徒がリリアンかわら版を求め、中等部・大学部でも大量に捌けたため、頒布率は１００％を
大きく越えたのである。
パタパタパタパタ カタカタカタカタ ‥‥
「山百合会ねぇ。一時は何だか不穏なムードだった紅薔薇ファミリーも落ち着いたようですし、
本当にないなぁ‥。でも事件がないっていうことは学園内が平和だっていうことで、いいん
じゃないですか？ 」
何だか刑事ドラマのイントロで、退職寸前の老刑事がつぶやくようなことを言い出した妹に
ついに三奈子はキレた。
「生ぬるいっ！！！ 」
バーン！ と机を叩くと、ビクッと１年生トリオが反応し、さすがにうんざりし始めていた真美
も眉をひそめて初めてお姉さまの方に向き直った。
「スクープなんてのは、いつでもどこでも転がっているものなのよ。特に相手が"有名人"なら、
その一挙一動がネタになる。私が今のあんたの立場だったら、もっともっともっともっと
山百合会に食らいついて ウワサ話のひとつでも上げてきてるわ 」
進学・就職の準備で忙しくなる３年生は、クラブ活動にそうそう時間を割いているわけにいか
ない。新聞部もその例にもれず、実質的な活動の全権は既に三奈子から真美へと委譲されて
いた。
「ウワサ話は"スクープ"じゃなくて、ただの"ゴシップ"です。そんなものは いくら集めても
まともな記事になんかなりませんよ 」
「ゴシップ、けっこうじゃないの。今ちまたには こんなウワサが流れているという"事実"を
記事にすることがどうしていけないのよ？ 」
詭弁だ。お姉さまは時々こうやって、わざと人の揚げ足を取るようなことを言い出す。それに
乗せられてはいけない‥と、真美は頭では解っているがどうしても感情が先走ってしまい、
ついつい まともに反論してしまうのだ。
「あのですねぇ！ お姉さまはリリアンかわら版をタブロイド紙にするつもりじゃないでしょう
ね？ 有ること無いこと、面白そうなウワサなら何でも拾ってきて大げさにあおり立てるだけ
の大衆紙は、もうジャーナリズムじゃありませんよ！ 」
真美はイライラと それでも努めて冷静に、とんでもネタで有名なイギリスの低俗な大衆紙を
例にあげてお姉さまの気持ちを動かそうとしたが、逆効果だった。三奈子は我が意を得たりと
食いついてきた。
「ああ、タブロイド紙。正に望むところだわ！ リリアンかわら版もそれでいきましょう！
宇宙人を捕まえたとか、マリリンモンローが生きていたとかいう突拍子もない話だって、
取材時点で論理的に否定できないなら十分ニュースになるって証明じゃない。
少なくともゴシップ記事を、とりあえず人目を集めるためだけのコンテンツに利用したから
って、別にマリア様のバチは当たらないと思うわよ 」
一気にまくしたてて三奈子は、ちょっと言い過ぎたかな‥と妹の反応を伺ったが、しかし、
どうやら ちょっとどころではなかったらしい。
さっきまで、できるだけ感情を押し殺そうとしていた真美は、今やカッと目を見開き、凍りつ
いた表情で固まっていた。やがて微かに震えながら吐き捨てた。
「お‥‥‥‥お姉さまには、もう呆れ果てました！ それならどうぞ、部長であるお姉さまの
思う通りの新聞を作ってください！ 私、今回は編集を降りさせてもらいますから！ 」
真美は鞄を小脇に抱え、すばやく帰り支度を整えると、大きなセーラーカラーの胸元に指を
突っ込んだ。銀色のロザリオを乱暴に引きずり出し、丸めてヂャラッと机の上に叩きつけた。
「それからこれは、謹んでお返しさせていただきます。あなたのその下品なセンスにはついて
いけませんので！ ごきげんよう！ 築山三奈子さまっ！！！ 」
バーンッ！！ 嵐のような勢いで部室のドアが閉められると、もう真美の姿はなかった。
「しまった、やり過ぎたか‥ 」
ようやく我に返ったという感じで三奈子は後悔したが、もう遅い。いつものお遊びの妹イジメに
しては、ちょっとしつこ過ぎた。でもまあ、済んでしまったことは仕方がない。
部室の片隅では３人の１年生が、長椅子からずり落ちそうな ひえぇ〜という姿勢のまま固まって
いた。尊敬する部長と編集長のすさまじい姉妹ゲンカの結末を目の当たりにして、衝撃を受けた
らしい。
やがて１人が三奈子の顔色をうかがいつつ、おずおずと口を開いた。
「み‥三奈子さま。いいんですか、このままじゃ‥ 」
「いいのよ、いつものことなんだから。２〜３日もしたら何食わぬ顔で戻ってくるでしょう。
そうしたら私も適当なところで折れて、謝っておくしね 」
こともなげに受け流す三奈子だが、それは決して強がりではない。実際この二人は、これまでも
こうしたことの繰り返しで姉妹の絆を深めて来たのだ。それだけ互いに生の感情をぶつけあう
ことができる関係だということか。
三奈子は今回のことも、致命的な破局なんかではないことを知っている。そして真美の気持ちも
同じであることも。一見特殊なようだが、これもまた姉妹(ｽｰﾙ)ならではの信頼関係なのだ。
だが、姉妹ならではの‥ということは、部外者にはそれが全く伝わらないということでもある。
かの１年生は、自分などが触れるのは はばかられるほど神聖なもの‥というように、真美の
残していった銀色のロザリオに向けて 上に向けた両手のひらをおずおずと差し向けた。
「あの〜‥、こ‥こちらは どうしたら‥？ 」
「真美のロッカーにでも放り込んでおきなさい 」
ぞわわ〜っ！ 後ろの２人も含めて、１年生トリオのひえぇ〜のポーズにより角度がついた。
しかし何やら思案顔の三奈子は、かわいい後輩たちの心配をよそに全くうわの空である。
実は彼女たちの心配とは別の意味で、困り果てていたのだ。
次のリリアンかわら版の発行は三日後の月曜日。今のケンカの元である、一面を飾るべきメイン
の記事が用意できていないこと。
真美のあの剣幕では、さすがにこの１〜２日で機嫌を直してくれることはあるまい。自分が
やらねばならないが、ちょうど折り悪く進路相談の時期にあたっていて身動きがとれない。
他の部員を集めて編集長の代役を決めようにも、今が金曜日の放課後ではどうにもならない。
‥ということは‥‥
「決めたわ！ 今回のリリアンかわら版は あなたたちが作りなさい 」
「ええっ！？ 」
"あなたたち"？ この部室には、三奈子さま以外には自分たちしかいない。"わたしたち"！？
がびーんっっ！！ ３人の１年坊主は、もうこれ以上崩れようが無いほど長椅子からズリ落ち
つつも、何とか態勢を立て直し 無茶な部長に哀願した。
「み‥三奈子さま、ムリです。わたしたちまだ雑用専門で、自分の記事を書いたこともないん
ですよ。一面のメイン記事なんて‥ 」
「真美は入部してすぐに、もう囲み記事を書いていたわよ。あなたたちだっていつかはやらなく
ちゃならないことなんだから、今ここで覚悟なさい。
その代わり、何を書いてもかまわないわ。ともかく頒布率を上げるためにメイン記事を工夫
してちょうだい 」
ああ、もうダメだ。三奈子さまが一度決めたことは何であろうと絶対に覆せない。唯一それが
できる真美さまは、たった今ロザリオを叩きつけて出ていってしまった‥
哀れなトリオは悲壮な覚悟を決めざるをえなかった。
「えーと、それで編集長は‥あなた。ゴメンね、お名前 何だったっけ？ 」
三奈子部長は、さっきロザリオを気にかけていた あの１年生を指名した。
「１年の‥ タカチ ヒデミです 」
「うん、それじゃヒデミちゃんが編集長として紙面をまとめなさい。と言っても、他の記事は
ほとんど出来ているから、一面を盛り上げることだけ考えればいいの。
頒布率を上げるためなら何を書いてもかまわないわ。責任は私がとるから、がんばるのよ！ 」
“放課後、用の無い生徒はいつまでもグズグズしていないで さっさと帰宅すること”
先生が常々おっしゃっていたことを守ればよかった。そして、それに気がついた時には もう遅い
のだ。未熟な１年生たちは、後悔の深いため息をついた。
ようやく梅雨が明け、青空が顔を見せ始めた。
高等部のキャンパスへ向かう途中のいつもの分かれ道。ここを通る時にはマリア様の白い像に
お祈りを捧げて行くのがリリアン女学園でのならわし。
生徒たちがあふれる登下校時ともなれば、マリア様の小さなお庭に列ができることもしばしば
だが、今ここで手を合わせているのは、築山三奈子ただ一人である。
カラーン コローン‥
昼休みを告げる鐘が鳴り響く。そう、今は月曜日のお昼どき、今まで授業の真っ最中だったのだ。
三奈子はたった今登校してきたところだった。季節はずれの風邪と過労で昨日から身体がだるく
微熱が下がらない。それでも準備してきた進路相談の面談があるからムリを押してやって来た。
そして、それよりも気になるのは‥
金曜日の部室での真美との大ゲンカ。その時１年生トリオにまかせたリリアンかわら版の最新
号が今日発行されたはずだ。
ちょっと無謀な決断だったかとも思うが、今の自分の体調をみれば、あの時即決で一任したのは
正解だった。後はありきたりな内容だったとしても、とりあえずきちんと今朝のうちに発行・
配布されていたら、あの３人を褒めてやろう。
（でもマリア様。できればあの一年坊主たちが 私がビックリするような大スクープをものに
していて、リリアンかわら版のテコ入れに一役買ってくれますように‥ ）
かなり図々しいお願いを お祈りついでにマリア様に捧げて、三奈子はまず中央玄関に向かった。
ここから一番近い、リリアンかわら版の「専売所」があるのだ。
三奈子は開け放した玄関の大扉をくぐると、すぐ左側にある小机に設けられているはずの配布
スペースを見た。しかし、何故かそこは空っぽだった。
拍子抜けして、何も置いていない小机を手で探りながら考えた。
（発行が 間に合わなかったのかしら？ ）
でも、それは無い。その証拠に山ほど余っていたはずの先週号も１部残らず消えている。それは
今週号が刷り上がったので、先週号の残部を処分して入れ替わりに置いたということなのだ。
（それじゃまさか、朝から今までのたった数時間に、ここにあった今週号がぜんぶ捌けたって
いうこと？ ）
それならもちろん万々歳なのだが、そんなことが本当にあるだろうか。それにガランと空いた
配布スペースを見ていると何だか妙にイヤな予感がした。
身体はますますだるく、軽いめまいがする。熱が上がって来たんだろうか。
三奈子が小机によりかかり、とりとめもなくそんなことを考えているうちに、生徒たちが少し
ずつキャンパスに姿を見せはじめた。久しぶりの青空に、外で昼食をとれるところを探している
のだろう。
それにしても、何だか妙な雰囲気だ。行き交う生徒たちが みんな自分を見てるような気がする。
ジロジロではなく、チラチラこそこそと。
（何よ、今ごろ登校したからって別にサボリじゃないわよ！ ）
そこへ小さな一団が現れた。いや団体でなく、うとましがっている誰か１人にぞろぞろと付いて
回っているらしい。山百合会かと思った。しかし その輪の中心にいた人物が、三奈子に気づき
声をかけて来た。
「お姉さま！ 」
何と、かわいい妹の(ロザリオは返上中だけど)真美だった。この子、いつの間にこんな人気者
に‥と驚いている間もなく、周囲の一団がキャーッと黄色い歓声を上げて一斉にこちらに振り
向いた。
本能的に、まずい‥！ と思った。
何だかさっぱりわからないけれど、どうやら今度はこっちが取り囲まれる番らしい。三奈子は
踵を返して駈けだした。
「お姉さまっ、部室っ！ 部室へ！ 」
後ろから真美の叫び声が聞こえる。新聞部の部室に行けということか？ そこに行けばこの謎が
解けるということか？
三奈子はセーラーカラーを羽ばたかせ、スカートのプリーツを蹴り上げながらクラブハウスへ
向かった。
文化部の部室を集めたクラブハウスの周辺には まだ誰もいなかった。さっきの様子では、あの
一団はここにも押し掛けてくるのかもしれない。その前に謎を解いておかなければ。
一気に走ったので、ますますめまいがひどくなった。身体は鉄のよろいを着ているように重い。
引きずりような足取りで、三奈子が 新聞部の部室がある一角までたどり着いた時‥
パカコッチャン！ ジーーコ パカコッチャン！ ジーーコ パカコッチャン‥‥！
この独特な騒音は、新聞部に２台しかない新旧のプリンターが同時に稼働している音だ。
誰が、どうしてこんな時間に印刷を‥‥
パカコッチャン！ ジーーコ
三奈子が部室の扉を開くと案の定、２台のプリンターが次々に印刷物を吐き出し、その合間を
あの１年生トリオが こまねずみのように忙しく飛び回って作業をしている真っ最中だった。
「あ‥あなたたち、何をしてるの‥？ 」
「あっ、ごきげんよう、三奈子さま！ 」
３人は仕事の手を止め、部長の元に集まった。
「やりました、三奈子さま。今回のリリアンかわら版、今の時点でもう頒布率１００％をほぼ
達成してます！ 」
「今、大学部に持っていく分を増刷してるんです。最終的には１５０％も夢じゃないですよ 」
「１００％‥？ １５０％？ ‥‥‥増刷？？？ 」
つまり、この子たちにまかせた記事が大ヒットしてるってこと？ そんなバカな、いったい
何を‥‥。
パカコッチャン！ ジーーコ‥‥
今まさに刷り上がってきたリリアンかわら版を、三奈子は印刷トレイからひったくるように
取り上げた。いやでも目に飛び込んでくる、一面をハデに飾る大見出しは‥‥
------------------------------------------------------------------------------
【スクープ！】『 新聞部名物姉妹 三奈子さま、真美さま破局！！！ 』
------------------------------------------------------------------------------
「何なの‥、これは‥‥？ 」
三奈子は混乱した。自分の名前がこんなに大きな文字で書かれているのを見たことがない。
熱とめまいも手伝って、これが夢だか現実だか 判らなくなってきた。
しかし、センセーショナルな見出しは二面・三面にまで続いている。
------------------------------------------------------------------------------
『 記者は見た！／叩きつけられたロザリオ、悲しみの全容 』
------------------------------------------------------------------------------
『 三奈子さまの新しい妹は？ 真美さまの新しいお姉さまは？ 記者予想はこれだ！ 』
------------------------------------------------------------------------------
『 あなたも三奈子さまの妹になれる？／○×式チェックシート 』
------------------------------------------------------------------------------
ようやく正気を取り戻した三奈子は、傍らに誇らしげに整列する後輩たちに力無く声をかけた。
「‥‥‥あなたたちが、これを‥？ 」
「日出実さんのおかげです。三奈子さまなら山百合会に負けないくらい有名人だから、きっと
いけるって言ってくれて 」
「いえ、私だけの力じゃないんです。みんなで相談して、知恵を出し合ってがんばったから
出来たんですよ〜 」
（ な‥‥ 何をこの子たち、ケンソンしあってるのよ？ まさか褒められると思ってるんじゃ
ないでしょうね？ ）
しかし新聞部の部長として、他にどんな対応のしようがあるだろう？
三日前、まだ経験も浅い１年生たちに、何を書いてもいいから頒布率を上げるようにと命じた
のは三奈子自身だ。責任は自分がとるとも言った。そして彼らはそれを忠実に守り、しかも
期待以上の大成果を成し遂げたのだ。
無邪気に顔を赤らめ、憧れの先輩からのお褒めの言葉に期待している１年坊主たちにかける
言葉が見つからなくて、逡巡しているところに クラッ‥と来た。その日 最大のめまいが。
もはや、自分の身体を支える力も残っていない三奈子は、ヘナヘナと床に崩れ落ちた。
「部長、どうしたんですかっ！？ 」
「三奈子さま、しっかり！ 」
騒然とする１年坊主たちの声をバックに、三奈子の頭の中では ひとつの大見出しがグルグル
渦巻いていた。
------------------------------------------------------------------------------
『 リリアン高等部 新聞部部長・築山三奈子倒れる！ 妹喪失の心労が原因か？ 』
------------------------------------------------------------------------------
パカコッチャン！ ジーーーーーコ‥‥‥‥
